植田工の個展「Sandlot:Organic Alternation / だす」が、2026年10月10日(土)から11月4日(水)まで、銀座 蔦屋書店のアートスペース「FOAM CONTEMPORARY」で開催されます。
銀座 蔦屋書店では3年ぶりとなる植田の個展です。2005年の卒業制作から2026年の新作まで、異なる時期に生まれた作品を織り交ぜながら、その思考と表現の変遷をたどります。
さらに会期中には、会場に作業台を設けて公開制作を実施。完成した作品だけでなく、作品が生まれ、変化していく過程も展示の一部として提示されます。
新旧の作品が交差する「Sandlot」
植田は、キャンバスや紙だけでなく、ベニヤ板などさまざまな支持体を用いながら作品を制作してきました。
本展のタイトルにある「Sandlot」は、空き地や遊び場を意味する言葉です。
植田が本展に寄せた文章では、幼いころ、家の壁や折り込みチラシの裏、与えられた紙に自然と線を引いていた記憶から、やがて文字を書くことと絵を描くことが分かれていった感覚、さらにゴミ置き場から拾ったベニヤ板にチョークで絵を描いていた経験までが語られています。
自分で用意したキャンバスや紙、拾ったベニヤ板について、植田は「この画面の上だけくらいは好きに生きてちょうだいよ」と自身に言い聞かせていると記しています。
また、近所の更地に雑草が生い茂る様子から、植物の生命力にも目を向けています。土地や所有をめぐる問いと、空き地に生える植物への視線が、本展のタイトル「Sandlot」とどのように響き合うのかも、作品を見るうえでひとつの手がかりになりそうです。
即興によって生まれる絵

展示作品のひとつ《自画像(卒業制作)》は、植田が東京藝術大学を卒業した2005年に制作した作品です。
植田は自身の制作について、絵は「描いている瞬間の連続」の結果であり、即興の産物でもあると捉えています。
この自画像は、卒業制作の提出日の朝に描き始められました。4年間を経た自身と向き合いながら、限られた時間のなかで一気に描き上げた経験には、その後の制作にも通じる、瞬間ごとの判断を重ねていく姿勢がうかがえます。
完成像を固定し、そこへ近づいていくというより、描く途中で現れてくる状態を受け止めながら次の一手を決めていく。
本展で行われる公開制作は、そうした植田の制作を、完成作品とは異なる角度から見る機会となります。
繰り返し描かれてきた「母子像」

2026年の新作《A Mother And A Child》に描かれているのは、植田が長く向き合ってきた「母子」というモチーフです。
約10年前、「人生の最後に一枚だけ描くなら何を描くか」と考えたとき、無心で現れたのが母子像だったといいます。
しかし、ひとつのモチーフを描き続けるほど、人間の存在は一枚のイメージだけでは捉えきれないものとして見えてきました。
そこからマグダラ、パンドラ、セイレーン、人魚など、さまざまなイメージが作品に現れるようになり、それらは時に一枚の画面の上で重なり合っていきます。
一度完成した絵の上にさらに別の絵を描くことで、ひとつのキャンバスに異なる時間や物語を積層させていく。こうした「描き重ね」は、植田の制作を読み解くうえで重要な方法のひとつです。
過去のイメージが、未来に現れる


《MILK In A Pitcher On The Woman》72.7×60.6cm(F20)、oil, acrylic on canvas、2023年
《Untitled》(2020年)や《MILK In A Pitcher On The Woman》(2023年)などでは、一度描いたイメージの上にさらに別の図像が重ねられています。
植田は、表面の絵具が年月とともに剥落したり退色したりすることで、下に隠れていた過去のイメージが、将来再び姿を現す可能性にも関心を寄せています。
その発想のきっかけのひとつとなったのが、大学時代の古美術研究旅行で高松塚古墳を訪れた経験でした。
時間を経て隠されていたものが現れ、同時に変化していく。その経験は、植田にとって「この世界に隠された大事なもの」と、時間の経過による変容について考える契機になったといいます。
完成した瞬間だけを作品の固定された姿とするのではなく、その後に訪れる変色や剥落までを時間の一部として捉える。
変化そのものを受け入れることで、時間を超えて残るものを探ろうとする姿勢もうかがえます。
ベニヤ板に刻まれる、作品そのものの時間

2012年の《Untitled(王女と王子と犬と車輪)》では、キャンバスではなくベニヤ板が使われています。
ベニヤ板は、木炭やチョーク、オイルパステルなどと相性がよく、植田にとってドローイングに近い感覚で描くことのできる素材です。
一方で、保存性という意味ではキャンバスとは異なる性質を持っています。
植田はその変化を否定的に捉えず、作品が経年劣化していくことも、一回性を持ったアートの重要な要素として捉えています。
枯れること、劣化すること、老いること。その変化のなかにも、別の意味でのみずみずしさを見る。
画面の内部に異なる時間を積み重ねる「描き重ね」に対し、ベニヤ作品では、支持体そのものが時間を引き受けていきます。
新作だけでなく、制作から10年以上、20年以上を経た作品までが同じ空間に置かれる今回の展示では、それぞれの作品が実際にまとってきた時間も見ることになります。
「描くこと」そのものへ戻る

2007年の《景色》は、A4サイズの紙に鉛筆と色鉛筆で描かれたドローイングです。
植田は自身を「鉛筆ネイティブ」と表現し、紙に鉛筆で落書きをすることを、もっとも自然に描ける状態のひとつとして挙げています。
幼いころの落書き、ベニヤ板への即興的な描画、キャンバス上で繰り返される描き重ね、そして公開制作。
支持体やモチーフ、技法が変化してきた一方で、「描く」という行為そのものへの関心は、植田の制作に繰り返し現れています。
完成した過去の作品と、会場でこれから生まれる作品。その両方が同じ空間に存在することで、「Sandlot:Organic Alternation / だす」は、植田工にとって「描くこと」がいまも続いている時間そのものを見せる展覧会となります。
植田工について

植田工(Takumi Ueda)は1978年東京生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業し、同大学大学院で美術解剖学を修了しました。
株式会社オリエンタルランド勤務を経て、茂木健一郎に師事し、アーティストとして活動。絵画を中心に、イラスト、デザイン、映像、コラムなど幅広い表現を展開しています。
近年は、須田日菜子との二人展「A Life of Drawing」(OIL by 美術手帖ギャラリー、2026年)、「此岸のハナ」(調理室池田、2026年)、「fixpoint」(六本木 蔦屋書店、2025年)などを開催しています。
2025年には大阪・関西万博「PASONA NATUREVERSE」で、池上高志監督・監修による《生命進化の樹》の製作にも携わりました。
植田工 個展「Sandlot:Organic Alternation / だす」開催概要
- 会期: 2026年10月10日(土)~11月4日(水)
- 時間: 11:00~20:00 ※最終日は18:00閉場
- 休廊日: 月曜日 ※10月12日(月・祝)も休廊
- 会場: FOAM CONTEMPORARY(銀座 蔦屋書店内)
- 住所: 東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 6F
- 主催: 銀座 蔦屋書店
- 協力: 株式会社Art Republic
- 入場料: 無料
- オープニングレセプション: 2026年10月10日(土)17:30~19:00
- 公開制作: 会期中に実施予定 ※日時は作家本人の予定により変動
- 公式情報: 銀座 蔦屋書店 公式イベントページ
展示作品は10月10日(土)11:00より会場で販売予定です。プレセールスの状況により、会期開始前に販売が終了する場合があります。




















