ロサンゼルスを拠点に活動するアーティスト、Ken Higakiの日本初個展「Tadpoles」が、東京・自由が丘のDIGINNER GALLERYで開催される。会期は2026年8月8日から30日まで。
本展では、日本とアメリカで過ごした幼少期や移住の経験を起点に、古典絵画と漫画、強さと脆さ、過去と現在といった異なる要素を一つの画面に重ねた作品を紹介する。展覧会タイトルにもなったおたまじゃくしは、異なる土地の記憶をつなぐとともに、まだ定まった姿を持たず、変化を続ける存在の象徴として描かれている。
二つの土地をつなぐおたまじゃくしの記憶
香川県に生まれたHigakiは、四国・丸亀の田園地帯で幼少期を過ごした。昆虫を捕まえ、水路に集まる小さな生き物を眺める日々のなかで、おたまじゃくしやカエルは故郷の記憶と結びついた存在だったという。
その後、アメリカへ移住したHigakiは、雨の多いオレゴンの風景のなかで、再びおたまじゃくしの群れを目にする。その光景は、丸亀の水路を歩いた幼少期の記憶を呼び起こした。
丸亀とオレゴンという異なる土地で目にしたおたまじゃくしは、Higakiにとって、二つの時代と場所を結びつける記憶のモチーフとなった。こうした記憶は、日本とアメリカの双方で形成された自身の背景を捉え直す手がかりにもなっている。
展覧会タイトルの「Tadpoles」は、英語で「おたまじゃくし」を意味する。おたまじゃくしは、以前の姿を残しながら、別の姿へと変化していく存在でもある。
本展では、その移行状態が、「かつての自分」と「こうあるべきだと求められた自分」との間で形成されてきたHigaki自身の経験と重ねられている。
古典絵画と大衆文化が共存する画面
Higakiは、伝統的なヴェネツィア絵画の技法を基盤とする具象表現を通して、肉体の存在感や緊張、人間の内側にある脆さや衝動を描いてきた。
本展の作品には、量感のある男性の身体とともに、おたまじゃくしや昆虫、両生類、漫画的なキャラクターが登場する。古典絵画を思わせる身体表現と、作家が幼少期に親しんだ大衆文化のイメージが、同じ画面のなかに配置されている。
古典絵画と漫画は、成立した時代や表現形式は異なるが、いずれも人間によって生み出された虚構のイメージでもある。Higakiは、異なる時代や文化に属する視覚表現を重ねることで、自身の記憶や経験を、奇妙でユーモラスな神話へと変換していく。

Threshold, 2026
社会に適応するために身につけた強さ
作品に描かれる屈強な男性像は、Higakiの移住後の経験とも結びついている。
アメリカへ移住したHigakiにとって、「強くなること」や「男らしくなること」は、新しい社会に受け入れられ、自身の居場所を得るための手段でもあった。いじめに耐え、スポーツや学校生活のなかで自分を証明しようとした経験は、作品に登場する身体表現へとつながっている。
一方で、作品に描かれる身体は、単純な強さだけを表すものではない。幼少期の無垢さと移住後に身につけた強さ、傷つきやすさと抵抗する身体、日本とアメリカの記憶が、互いを排除することなく並置されている。
それらは対立するものとしてではなく、Higaki自身を形成してきた複数の背景として、一つの画面に収められている。

Otona no Aji, 2026
変化の途中にある自己
かつて孤立の原因として感じていた自身の文化的背景は、愛やコミュニティ、他者からの受容を通して、現在では誇りへと変化したという。
日本人であり、アメリカ人でもあること。弱さと強さを同時に持つこと。幼少期と現在の自分が、同じ身体のなかに存在していること。Higakiは、かつて切り離されているように感じていた記憶を、絵画のなかで再びつなぎ合わせる。
「Tadpoles」は、Higaki自身の移住経験を出発点としながら、特定の文化や個人の物語だけに限定されるものではない。異なる環境や役割の間で揺れながら、まだ定まらない姿のまま変化を続ける人間の状態を、おたまじゃくしのイメージを通して示している。
完成された何者かとしてではなく、変化の途中にある存在として、人はそれぞれの居場所を探し続ける。本展は、その過程にある記憶や身体、文化的背景、複数のイメージが共存する絵画として提示されるだろう。
Ken Higakiプロフィール

Ken Higakiは、香川県出身、現在ロサンゼルスを拠点に活動するアーティスト。日本の田園地域とアメリカ・オレゴン州ポートランドで育った経験を背景に、複数の文化にまたがる視点から、人間の本能や感情、社会の中で形成される役割を描いている。伝統的なヴェネツィア絵画の技法を取り入れた具象絵画を通して、肉体、緊張、演劇的な構図を強調し、人間の行動の奥に潜む脆さと激しさを表現する。作品に登場する動物的な人間像は、人間関係や権力構造、社会的な役割を形づくる本能的な衝動を映し出している。美しさ、欲望、怒りが、人間という存在の中でいかに共存しているのかを探求している。
Instagram @ken_higaki






















Ken Higaki 個展「Tadpoles」
※最終日は17:00まで