「結いの文化」とその美しさとは何でしょうか。それは、長野県飯田市の水引に見ることができます。水引は、日本の伝統的な装飾品であり、祝い事や贈り物に用いられます。
その繊細な美しさと独特の技法から、全国的にその価値が認められています。この記事では、飯田市の水引の魅力とその製造過程を紐解き、その美しさと「結いの文化」がどのようにして生まれたのかを探求します。
一緒に、この伝統的な工芸品のジャパンクオリティな世界を旅しましょう。
(この記事は初めて2019年7月30日に公開され、その後の情報更新を経て、2023年8月4日に再公開されました。)
「小京都」長野県飯田市 水引づくり繁栄の歴史
日本の伝統工芸品である「水引」は、古くから日本の文化の象徴として愛されてきました。
その繊細な結び目と美しい色彩は、贈り物やお祝い事に欠かせない装飾として用いられてきました。
特に、日本一の水引づくりを誇る長野県飯田市は、この文化の拠点として、多くの人々を魅了しています。
長野県飯田市の水引は、贈り物のシンボルとしての偉大な歴史を持ちながらも、現代においても新たな可能性を広げています。
本記事では、飯田市の小京都としての栄光ある歴史から、水引の語源と由来、そして現代における水引の魅力に迫ります。
さらに、DIYで水引を楽しむ方法や水引づくり体験の魅力もご紹介します。水引の奥深さと飯田市の美しい文化に触れ、その魅力に満ちた世界へとご案内いたします。
さあ、長野県飯田市の水引の世界へ足を踏み入れ、結いの文化の美しさと深い意味を垣間見てみましょう。
贈り物文化が生んだジャパンクオリティ
お正月のお年玉をはじめ、お中元やお歳暮、冠婚葬祭の際のご祝儀や不祝儀など、外国人から見ても日本の贈り物文化はかなり珍しいと話題に度々上がっています。
独自のルールは時に厳しく、暗黙のルールなども多いため、日本人の私たちですら知らないことも多々…間違えてしまうとマナー違反になってしまう恐れもあるのです。
しかしながら、奥ゆかしき日本人だからこそ、「相手を思い合って贈り物をする」ことに意義を感じ、それは中身だけでなく贈り物を包むという行為そのものに既に日本人の美徳のようなものが詰まっているように感じます。
そんな日本人の贈り物文化を代表する物の一つが「水引」。知られざる水引の奥深い世界を一緒に堪能してみましょう。
水引生産量全国一の長野県飯田市はどんなところ?
水引の生産量で最も多いのが「長野県飯田市」だということは、ご存知でしょうか?飯田市は長野県の最南端に位置し、長野県の中でも暖かな気候です。
この気候が、水引の元となる和紙づくりを発展させる大きな要因の一つでした。また、全国でもかなり珍しく、地場産業が栄えているため、古くからの建物が続いていて、「小京都」と言われるほど趣深い街並みです。
「飯田」の地名は、「結いの田」が語源になっていて、まさに飯田市の伝統産業「水引」の「結び」にゆかりのある土地なのです。
和紙作り⇒元結⇒水引へ 飯田の人々が結った歴史
元を辿れば飯田市は、和紙の原料である楮(こうぞ)が豊富に栽培されていたため、和紙作りが大変盛んでした。
時は流れ、1672年に飯田藩主堀美作守親正が製紙産業を奨励し、当時髪を結うのに使われていた「元結」と呼ばれる和紙で作られた紐がこの飯田の地で作られるようになったのです。
とくに飯田の元結を有名にしたのは、桜井文七という男でした。江戸での評判も高く「文七元結」ともてはやされ、この名を使った古典落語の演目も存在します。
しかし幕末まで、一世を風靡した元結でしたが、1871年明治政府による「断髪令」で需要はガクンと減少します。飯田の人々は、産業を絶やすまいと、ここで大きく水引産業に方向転換をします。
元々「高品質」だった飯田の和紙を使った水引は全国的にシェアが広がり、高度経済成長期には団塊世代の結婚ラッシュに伴い、全国で一番の水引生産地となりました。現在では、婚礼人口が減少したため、厳しくもある水引業界ですが、小物やアートに水引を発展させるなど、あらゆる場面で努力を重ね、この伝統を守り抜いています。
長野オリンピックで一躍有名に
飯田水引の特徴は、芯が強い直線美と結びによって生まれるしなやかで美しい曲線美にあります。この飯田の水引が海外でも話題になったのが、1998年の冬季長野オリンピック・長野パラリンピックでの選手に贈られる記念品や入賞者に授与される月桂冠に採用されたことでした。これをきっかけに飯田の水引はジャパンクオリティとして、ますます世界の人々を魅了するようになったのです。
「水引」ってそもそも何?
さて、ここまで飯田の水引について触れてきましたが、そもそも水引とは?何でしょうか。
ここでは水引という名の由来や日本に水引文化ができた歴史、そして水引そのものに込められた意味を紐解いていきましょう。
水引の語源
「水引」という言葉の語源は、紙縒り(こより・七夕の短冊や金魚すくいの際にも使う和紙を糸のように撚ったもの)が元の紙に戻らないように糊水を引いて固めたからという説と、紙縒りを水に浸して引きながら染めたからという説があります。
このことから「水引」という言葉は水引を作成する工程に由来していることがわかります。
水引の有力な由来3つ
語源同様水引の由来にも諸説あります。中でも下記の3つの説が有力です。
①遣隋使からの由来
小野妹子が遣隋使として隋から帰国した際に、同行した答礼使の返礼品に紅白の麻ひもが結ばれており、その名残から習慣化して、宮廷への献上品を紅白の麻ひもで結ぶようになり、いつしかそれが紙縒りで作られた水引紐に変わったことから発祥した説。(また一説では、小野妹子が無事に帰れるようにと紅白の麻布を自ら荷物に結びつけたという話もあります。)
②室町時代の日明貿易に由来
日明貿易で、輸入品が入っている箱にすべて紅白の縄が縛ってあった。これは明側が、輸出の際に物資を紛れさせない為に施した対策であったが、日本側が勘違いをして、贈答品には紅白の縄をつけるのか!!と思い、そこから水引が生まれたという説。
③航海時のお守りに由来
航海の際に魔除けとして縄に塗った黒色毒が、ほどいてみると、赤く変色していたことから、邪気払いとして生まれた説。(現在でも、水引は「未開封」「魔除け」という意味をはらんでいます。)
どの説も有り得そうなので、真偽はわかりませんが、いずれにせよ古くから水引は縁起の良いものから派生して、贈答文化をけん引してきたことがわかります。
今さら聞けない...水引の種類と意味
冠婚葬祭の様々な場面で使う水引は、色や結び方によって全然意味が違うことをご存知でしたか?
恥ずかしながら、「なんとなくこれかなぁ…」という不確かな知識で筆者自身水引を選んでいたので、こんなにも種類があったことに驚きました。
お祝いやお悔やみの気持ちを伝える際に、知っておかないと全く反対の意味になってしまうこともあるので、ここでは大人のマナーとして必ず身につけておきたい水引の深い意味について紹介します。
水引の結びに込められた意味
水引には大きく分けて4つの結び方があります。
①蝶結び(花結び)
まず一つ目は、「蝶結び」です。夏のお中元や冬のお歳暮の時期に熨斗紙に印字されているのをよく目にする人も多いのではないでしょうか。
蝶結びはほどくことが出来、何度も容易に結びなおせるということから、「何度繰り返しても良いお祝い事やお礼」に用いる水引です。例としては、出産祝いや入学祝い、お中元やお歳暮、お年玉などに用いられることが多いです。
お祝い事の水引だからと言って、結婚祝いや快気祝いに使用することはできません。前述したとおり、簡単にほどけて何度も結び直せることから、「繰り返される」という意味を持ち、結婚の繰り返しや、病が度重なってしまうなど、相手に不快な思いをさせてしまうので要注意です。
②結び切り(真結び)
2つ目は「結び切り」です。もともとは、目上の人や改まって誰かに贈り物をする際に使用されていました。
まるで逆さまのリボンのような形の結び切りは、水引を型結びしていて、絶対にほどくことができません。
すなわち蝶結びとは違い、「二度と繰り返さないでほしい」という意味から結婚祝いやお見舞い、また香典にも使用されます。(色によってお祝いとお悔やみの意味合いが変わってくるので、この後色については説明させていただきます。)
③淡路(あわじ)結び
3つ目は「淡路結び」です。あわじ結びは結び切りの進化系で、意味としては同じ「二度と繰り返さないでほしい」という思いと結び目が複雑に絡み合っていることから長生きや長続きとしての意味も込められています。
別名「鮑(アワビ)結び」とも言われるように、結び目がおめでたい鮑に似ているからという一説もあります。
結び切りよりも華やかなので、結婚式のご祝儀で使用されることが最も多い水引です。現在では、「飾り淡路」といって水引のデザインの中にあわじ結びのモチーフを取り付けたようなものもあります。
とても可愛らしいものが多いので、ついつい他のお祝い事でも使用したくなりますが、何度も起こりうるお祝い(出産・入学・開店祝い・お中元・お歳暮等)に使用すると逆に失礼になってしまうので、気を付けたいところです。
④梅結び
最後に紹介するのは「梅結び」です。この梅結びは5枚の花弁からなる梅をモチーフにした、淡路結びと同じくらい結婚式のご祝儀や結婚祝いに用いられることが多い水引です。
松竹梅でも知られるように、梅は日本では、とても縁起の良い植物です。引き出物などでも、梅干しを選ぶ人が多いのはこういったところから来ているのかもしれません。
梅結びもしっかりとほどけないようになっているので、「二度と繰り返さない」という意味が込められています。
水引の本数に込められた意味
水引は一本の細い紙縒り(こより)が束ねてある故、この本数にもきちんと意味が込められています。この本数は中国古代の陰陽説が起源で、慶事(祝い事)は奇数、弔事(お悔やみ事)は偶数とされています。
また、五行説の「五気が万物すべての基本」という考えから「5」が基本の数となっているため、お祝いの金額によって本数も合わせていくのが一般的です。
最近では、ご祝儀袋が販売されている際、外側の包装袋に包む金額の目安が書かれているので、ぜひ水引と見比べてみてください。それぞれの金額に見合った水引が充てられているのがよくわかります。
水引の色に込められた意味
さて、結びの種類の一つ、「結び切り」の説明で、色によって意味合いが違うということに触れたので、ここでは、水引の持つ色の意味についてお話しさせてください。
一般的に下記の図にある色が水引には用いられていて、それぞれに意味があります。最近ではカラフルだったり淡いカラーだったりが使われていることがありますが、下記の基本色をベースに現代的にデザインされているので、日本の習わしが消えてしまっているわけではありません。
また色の配置に関しては、陰陽道に起源があり、正面から見て右側は陰に当たるので濃い色を、左側は陽に当たるので淡い色を配置して結ぶようになっています。
現代に引き継がれる水引の文化と新たな可能性
水引の由来の中には魔除けの意味や、色、本数や結び方によって異なるジンクスを持っているとお話ししてきました。
近年では神社などで水引を用いたお守りアクセサリーや、水引おみくじ(小さな筒の中におみくじと色や結びデザインの異なる水引が一緒に入っているおみくじ)などが販売されています。
水引の持つ独特の和のテイストが神社という場所に非常にマッチし、さらにそのデザインのかわいらしさから、女性を中心に人気を集めています。
日本各地の神社などで販売されており、お守りアクセサリーは場所によってデザインが異なっていることが多いです。また、水引のおみくじは通常の紙のおみくじとは違って、紙のおみくじ+水引のおまもり付きのため、とても特別感があります。
神社・仏閣巡りのプチ土産や思い出の品として、いいかもしれませんね。
水引をもっと身近に。
現代の私たちの生活にも水引を取り入れてみましょう。
DIYで気持ちを形に
水引といえば、お祝いで頂いた際に保管するべきか、捨てるべきか悩むことがあります。
なんだか捨ててしまうのも忍びないなぁと思っていた際に、水引を使ったDIYが存在することを知りました。
箸置きにしたり、壁にかけるアートにしたり、アクセサリーにしたり...
筆者はその中でも一番簡単そうなリースにチャレンジしてみました!
必要な材料は100円ショップやインテリアショップに売っている枝でできたリースと、グルーガンのみ。
あとはひたすら、バランスを見て水引をグルーガンで接着していくだけ。不器用な人間でも水引の美しさのおかげでなんとなく形になり、自宅のインテリアの一部になっています。
是非皆さんも機会があればチャレンジしてみてください。
水引づくり体験でジャパンクオリティに触れる
長野県飯田市の「水ひき工芸館せきじま」は、水引を一から作ってみたい方にぴったりの場所です。
日本一の水引づくりを誇るこの地で、伝統的な水引づくりの技術を体験することができます。
この工芸館では、事前予約を行うと箸置きやしおりなど、かわいらしい水引の小物を作ることができます。自分で結んだ水引を手に持つ喜びや、職人の技を学ぶ感動を味わいながら、オリジナルの作品を作り上げることができるでしょう。
併設されている美術館では、珍しい水引の展示も行われています。本場の水引の美しさとその歴史に触れることで、より深い理解と感動が得られることでしょう。
贈り物のシンボルとして愛される水引の世界に、飯田市の美しい文化を感じながら没頭してみませんか?
「水ひき工芸館せきじま」での水引体験は、心に残る特別な時間となることでしょう。是非、足を運んでみてください。
「水ひき工芸館せきじま」は残念ながら閉店しました。
水ひき工芸館せきじま
住所:長野県飯田市中村1138-2
TEL:0265-25-4511
営業時間:8:30~17:30
公式WEB:伊那路グループ
筆者:Honami
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